自然は偉大なチャーチスト

自然と人間が為す相場との関係を考察するブログです。

緊急時の政府債務

 

 

「今は政府債務の膨張を懸念する時ではない」

 

パウエル米FRB(連邦準備理事会)議長は4月29日の米FOMMC(連邦公開市場委員会)の記者会見でこう語った。中銀トップが財政政策に口を出す「越権行為」はたまにある。ただ財政規律を守るよう主張するのが普通で、パウエル氏の発言は反対だ。

 

FRBは3月下旬、国債などの購入を無制限に進める方針を決定済み。増発された国債はいくらでも買い支えるから、コロナ危機への対処に支出をためらわないでほしい。そんなメッセージを政権に対して発したといえる。

 

黒田東彦日銀総裁は4月27日の金融政策決定会合後に「できることは何でもやる」と強調した。会合では、従来年間約80兆円をめどとしてきた長期国債購入額について、上限を撤廃した。政府のコロナ対策実施に伴い国債が増発される。それで長期金利が不安定になるのを防ぐため、FRBと同様の無制限買い入れをするのだ。コマーシャルペーパー(CP)や社債の購入枠も約3倍に増やした。

 

ラガルドECB総裁は「我々は完全に柔軟だ。全ての選択肢を検討対象にする」と語る。4月30日の理事会では、銀行支援に向け、最低マイナス1%の金利での長期資金供給実施を決定し、国債買い入れなど量的金融緩和を今後拡大する可能性も示唆した。

 

主要中銀が国債購入による財政との連携を重視するのには理由がある。2008年のリーマン・ショックが金融部門の混乱を起点としたものだったのに対して、今回のコロナ危機は実体経済への打撃が起点であり、政府の対応も重要だからだ。例えば国民への現金給付は中銀ができる仕事ではない。

 

しかし、米国の政府債務拡大は大きな懸念である。

 

米政府の調査機関によれば、米国の2019年の政府債務残高は米国内総生産GDP)比で79%だったが、コロナ対策のために今年中に99%に達し、2023年には108%に届くとの推計がある。これは、第2次世界大戦中に記録された水準を上回ることになる。これは偶然ではない。今のパンデミックとの戦いも戦争のようなもので、国債の発行は増えるという。

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トランプ政権に従順な米FRB(連邦準備理事会)は、すでに米国債を購入している。経済の状況が今後数カ月でさらに悪化した場合には、FRBは「イールドカーブ・コントロール」、すなわち長短金利の操作に取り組むことになるだろう。

 

これは短期国債と長期国債の両方を買い入れ、通常は残存期間すべてにわたって金利を低水準に抑えることを目指す戦略だ。なお米ドルは主要な準備通貨なので海外による米国債の購入は今後も続くだろう、ということだ。

 

また、NY連銀の米国リセッション確率モデルによれば、もはや米国はリセッションの入り口に差し掛かっている。だとすれば、米景気回復により、税収を上げ、財政赤字を解消していくにはかなりの時間を要しよう。

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米TBAC(財務省借入諮問委員会)の報告書は、「米国債の外国人保有比率が落ち込んでおり、今後は「債務を国内で資金手当てする必要が高まる」と警告している。米国の家計部門による米国国債保有比率は、現在、かなり低い。米国国債の現在の金利水準はかなり低く(10年国債利回り、0.6%(4月末))、金利としての魅力があるとは言えない。

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国債の安全性を見る際、国内総生産GDP)に対する政府債務の比率の低さを重視される。

世界の合計では、2008年末の62%から2019年末は89%まで高まった。それが可能だったのは、各国の中央銀行量的緩和国債を買入れ支えてきたからだ。しかし、政府債務が膨大になった場合、とても、中央銀行のみで買い支えられるものではない。また、インフレになれば緩和策も取れない。国債利回りは上昇し、利払い負担は膨らむこととなる。

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たしかに、中央銀行が役割を発揮し、国債を市場から買い取り、プリント・マネー(紙幣をする)ことにより、金利をコントロールしながら、政府債務をコントロールしながら、運営することは可能であろう。現時点で、こうした危機感を抱く人はほとんどいない。緊急時でもあり、政府債務の増大に人々がひどく無頓着になっている。しかし、もはや取れる政策が、国が“緊急時国債”を発行し、中央銀行が無尽蔵に国債を買うことしかないというところにリスクが存在する。