自然は偉大なチャーチスト

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米国、メディア業界の変化、「勝ち組と負け組」

 

 

 米メディア銘柄を見てみよう。S&P500株価指数のセクター分類では、「メディア・娯楽」に分類されるが、特に、米国では、企業の売上げ等において広告の役割がかなり大きいこともあり、景気の先行指標としても注目されている。アルファベット、フェィス・ブック、ツイッターなどのITテクノロジー企業についても、広告収入はコア(核)となる収益であり、その動向、変化については目が離せない。また、米国メディア業界の動向は、日本の数年先を予想させる。

 

 新型コロナウイルスの影響により、米メディア全般にわたって広告が消滅しつつあり、新技術も救いにならない。広告主は予算を急速に削り、広告をキャンセルまたは削減しており、メディア各社の広告収入を大幅に減少させて業界の将来を危険にさらしている。

 

 理由は単純だ。有名な広告主でさえ広告を出す理由がない。世界的に旅行が手控えられており、航空会社、ホテル、クルーズ船運航会社、カジノ運営会社、レンタカー会社はサービスを宣伝する必要がない。自動車会社の工場は生産を停止している。映画館も閉鎖されており、映画の予告編もない。オンライン広告を買う多くの中小企業は、破綻回避のために苦慮している。

 

 リーマン・ショックの時には、デジタル広告はまだ立ち上がったばかりだった。

 2008年の広告全体に対するデジタルの割合は約12%で、シェア上昇によって広告全般の軟調を相殺できた。今や、デジタルの割合は55%に上昇している。

 

 広告業界は、今後のヒントを模索している。

広告代理店であるマグナは、2020年の従来型テレビ放送の広告について、上半期が20%減、下半期が2.5%減で、通年で12%減少するとみている。一方で急反発も予想しており、2021年を4%増と予想する。

 

 オンライン広告業界団体であるインタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)は、広告業界の現状について、400社弱の調査を行った。調査した企業の4分の3近くが、広告の現在の局面が2008年の金融危機よりも悪いと回答した。今年の第2四半期については、約4分の1の企業が全ての出稿を取りやめ、46%は広告費を削減した。この調査によると、3月から6月にかけてのデジタル広告費は33%、従来型の広告費は39%減少する見込みだ。

 

 広告の各セクターを個別に見てみよう。

 

 ■ オンライン広告

 

 オンライン広告では、経済活動の停止が小規模企業に及ぼす影響が特に懸念されている。

広告収入に占める小規模企業の割合を、フェイスブックで40~45%、アルファベットのグーグルで50~55%と推定されているのがその理由。ロックダウン(都市封鎖)が2カ月続いた場合、小規模企業の最大30%が破綻する可能性がある。

 

フェイスブックツイッターは、景気後退の影響を受ける。グーグルでも間違いなく影響が見られるはずだ。

フェイスブックの開示はあいまいだ。同社はブログで、「新型コロナウイルス感染を抑えるために積極的な行動を取っている国々で、当社の広告事業が軟化している」と述べた。トラフィックは毎日のように過去最高を記録している一方で、メッセンジャーやワッツアップのようなプラットフォームにおけるトラフィック増加を収益に結び付けられていない。

 

 ツイッターの発表はより具体的で、他の企業の指標になる可能性がある。同社は当初、第1四半期の売上高を前年同期比10.5%増の8億2500万~8億8500万ドルと予想していたが、今や若干の減少を見込んでいる。フェイスブック同様にトラフィックが急増しているが、それが増収に直結していない。ツイッターの予想未達分が3月に発生したと仮定すると、同社の3月の広告収入がウイルス感染拡大前と比較して30%減少したことを示唆しており、IABの報告とも大きくは違わない。

 

 ツイッターフェイスブックのコメントは、アルファベットや、ソーシャル・ネットワーキング・サービスのスナップとピンタレストが同様の問題に直面することを示唆している。地域の広告消滅は、情報サイト企業のイェルプにとって特に問題だ。

 

 ■ ケーブルTV

 

 ケーブルTV持ち株会社のAMCネットワークス傘下にあるような放送局やケーブルTV会社にとっては、三重苦となっている。既に述べたように広告費は枯渇しつつあり、サブスクリプション型のオンライン動画配信サービスの視聴者は急増しており、スポーツ番組の欠如が長期的なケーブルTV解約傾向を加速させる可能性がある。

 

 大手メディアであるケーブルTVのコムキャスト、通信大手のAT&Tおよびウォルト・ディズニーは、持ちこたえている。3社共に現状のままで危機を乗り切れる公算が大きいが、問題点もある。3社は、広告主が予算を削減した場合に打撃を受けるケーブルTV事業を持っている。スポーツ放送チャネルとしてAT&TはTBSとTNTウォルト・ディズニーESPNを持つが、プロおよび学生のスポーツが中止されているため苦境にある。コムキャストはピーコック、AT&TはHBOマックスという新たなストリーミングサービスの開始準備を進めているが、環境は想定と大きく異なっている。コムキャストは、2020年オリンピックの放送を加入者獲得のスプリングボードにしたいと考えていた。

 

 コムキャストAT&Tは、膨大な規模のブロードバンド・ネットワークを保有しており、それは自宅待機を強いられる人々のライフラインとなっている。自宅待機は、ウォルト・ディズニーが開始するストリーミングサービスのディズニープラスにとっても恩恵だ。

 

 ■ その他メディア

 

 新聞各社も広告減少で圧迫されており、ニューヨーク・タイムズニューズ・コーポレーション、雑誌出版ではメレディス、ガネットが著しく影響を受けている。ラジオ関連で、アイハートメディアとキュムラス・メディアが大幅減益の見込み。また、屋外広告は、通勤禁止によって壊滅的影響を被っている。クリア・チャネル・アウトドア・ホールディングス、アウトフロント・メディアなどの銘柄群。

 

 ■ 好調銘柄

 

 メディアの中で株価パフォーマンスが最良の銘柄は、広告にあまり依存していない企業だ。

動画配信大手のネットフリックスは、株価も底堅い。同社は広告枠を販売したことがなく、加入者を増やして危機を脱する公算が大きい。また、ブロードバンド専業ともいえるチャーター・コミュニケーションズやアルティスUSAも勝ち組であろう。今年発売予定のソニーマイクロソフトの新型ゲーム機も、多くの人々が自宅に縛られて娯楽に飢えている中での絶好のタイミングでの発売となろう。