自然は偉大なチャーチスト

自然と人間が為す相場との関係を考察するブログです。

アメリカも構造改革やむなし


 
 

 米国においては、コロナショックを受け、急速に経済構造が変化しだした。政策によって ウイルスを止めることはできず、休業やロックダウン(都市封鎖)も防げなかった。経済への影響と雇用状況との間にはずれがあるものだが、今回は通常よりさらに大きなずれが生じた。

 

 1960年代から1970年代のエコノミストのベリル・スプリンケルの1964年の著書 (『Money and Stock Prices』)によると、政策の経済に及ぼす影響を見る前に金融市場での影響を見なければならないとある。今回は、FRBの金融緩和により、信用市場は一時的悪化から立ち直り、債券利回りが低下し、 高格付け債券の信用スプレッドは縮小し、住宅ローン金利も危機前の低い水準に戻った。  

財政金融政策のおかげで実体経済の中に回復の芽生えも見られるが、政策が経済を下支えする効果を十分に実感できるまでには長くかかる可能性があるであろう。

 

 特に、2020年第4四半期の景気動向には大きな疑問が残る。秋になり感染率が上昇した場合、また街を閉鎖する必要がある。 各州が徐々に、慎重に経済再開を行ってくれればよいが、各州が違う時期に再開に動いており、感染 の再度の増加で、景気指標がまた大きく落ち込んだりする可能性がある。「波状解除」という言葉が今回はぴったりだ。

 

 FRB米連邦準備制度理事会)や政府の莫大な資金の投入がなかったら今頃経済はどうなっていただろうか?もっと破滅的な状態で、 長期的なコストはより高くなっていたのではないだろうか?

 

政府の債務は非常に重い負担になる。負債への 対処が悪いと、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、米国の信用格付けを引き下げるだろう。 そうなると、政府も行動を取らざるを得なくなる。長期的な成長を下支えし、逆風を和らげること が同時にできる政策が取れればよいが、なかなか難しい問題だ。

 

 過去20年間の商品価格は中国をはじめとする新興国の好況によって先導されてきた。中国経済 が第1四半期に受けた打撃は大きく、約7%のマイナス成長だった。石油を含む商品価格 の下落が大きかった。サウジアラビアとロシアの生産競争が原油価格下落を悪化させた。

 

中国の状況は大きく改善し、経済を再開させた。中国の経済活動や米国経済改善の兆しなどを反映して石油価格も幾分持ち直してきた。カウボーイと資本主義者なのだからそのうち窮地を切り抜けるだろうが、長期的に見た場合中国は過去20年のペースよりはかなり緩やかな成長になるだろう。従って、商品価格の上昇も抑制されるだろう。

 

 

中国の2019年の公式なGDP成長率は約6%だった。今年は2%との予想。中国の高度経済成長時代は終わった。中国と関連の深い新興国諸国にとっても痛手となるだろう。新興国全般の成長率は2~3%に低下するが、これは商品価格の急騰を防ぎ、世界にとってはより健全 なことだ。

 

米国は2008年のリーマンショック時に貯蓄がほとんどなく負債が多過ぎた消費者がその後の景気拡大期により賢明で新しい消費者に変容した。

 

貯蓄率は2007年から2019年までに4%から8%に 上昇した。貯蓄率が上昇するのは1960年代以降初めてのことだった。消費者は自分たちの雇用の安 定や健康、さらに政府が最後の守り手となれる能力に関して以前よりもっと懐疑的にならざるを得ない。これら三つの理由のため、次の景気拡大期には貯蓄率が11%に上昇するとわれわれは予想している。第1四半期の貯蓄率は10%近かった。3月は13%だった。リセッション(景気後退)の際 に起きる典型的な動きだ。リセッションから抜け出した時も貯蓄率は高止まりしているだろう。貯蓄率の傾向は30年周期のサイクルとなる傾向がある。

 

米国は、約10年間も米国製造業の再興を重視してきた。過去5年間にますますその考えは強まった。前回の景気拡大期の初期に、中国がもはや競争力のある場所ではなくなり、米国こそ競争力が 最高となったため米国製造業の再興に関して強気になった。第二に、過去4~5年に法人税減税などの事由により、米国への企業の回帰が下支えされた。ついに歴史上初めて米国の法人税が中国並み になった。第三に貿易紛争や新型コロナウイルス危機がこのテーマを裏付けることになった。海外 からの自国回帰が住宅や設備投資における投資サイクルの主なけん引要素となるだろう。

 

 小規模事業も徐々に回復するだろうが、雇用の50%を占めるまでには長い期間がかかるだろう。 前回の景気拡大期に小規模事業が雇用全体に占める割合は、価格決定力や電子商取引の能力を持つ 大規模な事業者にシェアを奪われ、51%から49%へと低下傾向にあった。次の景気拡大期にはさら に低下していくだろう。経済活動全般が回復できないということではなく、レジャーや小売りを中 心とする小規模事業は経済の中で弱い部分となるだろう。

 

各州の外出制限措置が緩和され経済活動が再開されるにつれて雇用は回復するが、大手企業主導となるだろう。夏の間は前月比100万人程度の雇用増が見られる可能性があるものの、もっと長 期的に見ると、今回も雇用の回復なき景気回復となる見込みだ。恐らく今後2~3年の経済活動の回 復ペースは雇用回復のペースより速いだろう。レジャーや実店舗主体の小売業は収容能力を減らす 必要に迫られているのだから、解雇した従業員の全てを雇い戻すとは思えない。前回の景気拡大期 に雇用者数が危機以前に戻るのに6年かかった。今回の回復も同程度かかる可能性がある。

 

 新興国が世界の成長をけん引し、巨大な多国籍企業がその恩恵を受けた時代は終わった。私が 仕事を始めた1980年代は、インフレと高金利の経済から低インフレと低金利の環境へと変化した。

 

 世界的な経済成長の体制に変化が起きている。

 

雇用なき景気回復の中で恩恵を受ける企業もある。消費パターンはハイテク、医 療、生活必需品の重視へと変化しており、消費者の支出や貯蓄率に変化が起きる。

 

新しい消費者の 行動により多くの企業が苦戦することになろう。米国中部への投資が増加する見込みだ。米国の中央部の企業は長期的に成長する。小売業、製造業、資本財セクターで米国中部を本拠としている企業は既にアウトパフォームしている。