自然は偉大なチャーチスト

自然と人間が為す相場との関係を考察するブログです。

日本の人口減と技術革新

 日本は人口減少と同時に高齢化が進んでいる。日本の人口動態は、今から約100年前の大正時代の頃、人口は約5,000万人であったが、100年かけて現在の1億2,000万人となった。国立社会保障・人口問題研究所によれば、100年後の2115年の将来人口は5,055万人になると推計されている。日本は極めて極端な人口動態を経験することになる。たしかに財政・社会保障等は、人口減少・高齢化の下で多くの困難に直面するが、人口が減少するため、GDPのマイナス成長は自然だという議論は間違っている。

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 人口が減少に向かうことは1970年代末からはっきりしていたが、1980年代後半のバブル時期は、人口が減少するから日本経済は駄目だという話はいっさいなく強気論だけだった。バブル崩壊後の1990年代もそれほど言われず、2000年代に入ってから人口減少が日本経済の問題として多く取り上げられるようになったが、人口減少だから日本経済はマイナス成長という人は少なかった。しかし、最近では年を追うごとに人口減少だから日本経済はマイナス成長と言う人が増えている。

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 しかし、経済は人口によって規定されるものではない。1870年以降の人口と実質GDPの推移をみると、日本は、高度成長時代の1955年から1970年代初頭の間、人口増が1.2%で、実質GDPは10%伸びており、一人当たりのGDPの伸び、労働生産性が約9%上昇していた。

 

 日本では、人口が減るから日本は駄目だという悲観論が強い。人口減少ランキングを見ると、日本は15位、ドイツは19位であり、ドイツは日本と並ぶ人口減少大国である。しかし、ドイツで意見交換をしたところ、人口減少により経済成長がゼロ成長となると考える人はおらず、ドイツの技術力は世界のトップ水準で、イノベーションの潜在力は衰えていないと考えていた。

 

新しい技術から新しいモノ、サービスが登場すると、それを反映して産業構造の変化が生まれる。高い経済成長は産業構造の大きな変化を伴っている。日本の場合は、経済成長率は低くなっていることから、それに伴い、産業構造の変化も小さくなっていることが分析結果から明らかになっている。

 

TFPと実質経済成長率)

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<潜在成長率にたいするTFPの寄与は高い>

 

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新しい技術から新しいモノ、サービスが登場すると、それを反映して産業構造の変化が生まれる。高い経済成長は産業構造の大きな変化を伴っている。日本の場合は、経済成長率は低くなっていることから、それに伴い、産業構造の変化も小さくなっていることが分析結果から明らかになっている。

 

19世紀の初頭から第一次世界大戦までの約100年の間のイギリスでは、経常収支で膨大な黒字を出し続けた。しかしながら、この間、貿易収支はずっと黒字になることはなかった。サービス収支の黒字が、貿易収支の赤字を上回ることで、経常収支の黒字を出し続けてきたのである。サービス収支の黒字は、海運収入、商社の収益、あるいは保険料であった。これが意味するのは、イギリスは単に自国の貿易のみを行っていたのではなく、世界の貿易全体のインフラストラクチャーを提供した。イギリスの海軍力と、情報力がこれらを可能にした。

 

<1831~1913年、イギリスの経常収支の推移>

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幕末の日本において、フランスは最後まで幕府に肩入れしたが、イギリスは薩長が勝つことを見極めた。イギリスは驚くべき情報力を発揮して、世界の隅々までの情報を入手していた。これが広い意味でイギリスのマクロの生産性を支えていたといえ、個々の企業の生産性とはひとつ次元の異なるところで、国としての生産性を支えていたと考えられる。

 

日本のイノベーションの衰退が危惧されている。これは喫緊の問題である。

 

ISバランスをみると、2000年代に入ってから日本で貯蓄超過幅が上昇しているのは非金融の法人部門となっている。企業の利益剰余金は1998年以降急激に増加し、2016年度は過去最高の約406兆円を計上した。企業が剰余金、現預金を貯め込んでいるのではないかということが指摘できる。

 

<日本のISバランス(投資‐貯蓄)の推移、部門別>

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<企業の内部留保(利益剰余金)・売上高の推移、規模別>

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イノベーションは、民間企業だけの話ではなく、政府も取り組まなければならない課題である。

 

これは、金融セクターではなく、実物経済を見るとよくわかる。

 

世界の港湾ランキングをみると、1980年には、神戸、横浜、東京と3港がランクインしていたが、2006年時点では、トップ20に入る日本の港は一つもなかった。コンテナ船が大きくなったにもかかわらず、スーパー港湾整備がされなかったため、コンテナ船が入って来られなくなったためである。港町の繁栄が失われれば、その港町に所在する様々なセクターで生産性を上げることはできない。例えば、港が競争力を失えば、客が入らない客観的な状況の下で、この港町にある企業が生産性を上げろと言われても、何ができるのかという問題がある。政府でやるべきことをやらないと、生産性向上は望めないといえる。

 

<世界の港湾ランキング>

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まとめると、現状では次のことが必要である。

➀政府は、しっかりとした今後10年(最低限)ビジョンと予算の提供する

②企業は、コストのかからないところから(今はIoT)、技術革新、ICTに対する設備投資を開始する

③それを担う新しいイノベーション(ICT)を担う若い人材を育成する

 

日本は、20年の失われた時代に、これまでの技術立国というプライドも先進技術開発も失われてきた。しかし、これまでの国民性である実直な職人気質は失われたとは思わないし、交通網や建築物などのインフラは世界の各国よりも整備されている。ICT(インフォメーション、コミュニケーションテクノロジー)への取組みを重視し、企業はIoT(インターネットオブシングス)を充実させ、TFP全要素生産性)を向上させれば、人口減少・高齢化の世界でも成長は期待できるであろう。