第4次産業革命に出遅れた日本、フェーズ2から参戦できるか?
現在は、産業革命から200年続いた後、情報産業革命が起きている歴史的局面にある。これまではモノ・カネを主たるアセットとしたハードよりの産業とデータやAIを主たるアセットとした情報系産業とに分かれていたが、今後は産業分野にかかわらず、両方の経営資源を持つことが当然になっていく。また、我々は世界経済の重心がアジアに戻るダイナミックな局面にいる。大半の人が思っているより遥かにはやく変化は起きる。
世界企業の時価総額ランキングのトップ企業は10年前と比べ様変わりしており、現在はデータやAIを使い倒している企業がトップを占めている。これらの企業の特徴は、利益よりもはるかに大きな事業価値を持っており、世の中を変えている感を持てることが大きな事業価値につながっている。
このように技術革新が急速に起きている今、国富を生むメカニズムが質的に変容しており、富を生み出すのは、会社の規模よりも、夢を描いて形にする力である。新しいメカニズムの下では、
①未来への期待感や寄与度、
②既存の枠組みを超えICT、技術革新をテコに世の中をアップデートすること、
③ジャングルを切り開きサバイバルすること
が重要であり、非常にワイルドな時代である。
また、AIとデータを使う戦いで重要な要件は3つあり、
1)デバイス・領域を超えたマルチビックデータ、
2)圧倒的なデータ処理力、
3)質と量で世界レベルの情報系サイエンティストとICTエンジニアである。
日本の現状をみると、データ量はアメリカと比べると1桁以上少なく、使用するにも既存産業の保護的な規制のため大半の用途で使えない、マル2処理コストも電気代1つとってもアメリカとは5~10倍、中国とは50~100倍以上の差があり、国力の差になっている、マル3人材もビックデータやAIを実装できるようなエンジニアが少なく、日本はICT系エンジニアの総数では世界で米中インドに次ぐ4番目だが、ビッグデータ、AI系のエンジニア数では7~8番目の可能性すらある。
今、必要なのは、新しく利用可能になった技術の力をテコに、世の中をアップデートしようとするハッカーやギーク(geek)であり、このようなTech-geekたちを生み出さなければならない。しかし、この時代のビックウェーブが生じているにもかかわらず、ミドル層・マネジメント層をみるとチャンスと危機を理解している人が少なく。スキルを新たに変えないと生き延びることができないにも関わらず考えてもいない。今の日本は、この新しいゲームの視点で見ると、ペリーの黒船来航の時代の日本と同様といえる。
ただ、日本にも希望がある。産業革命を俯瞰すると3段階あり、
(フェーズ1)新エネルギーと技術が生まれる段階
(フェーズ2)高度な応用が広がる段階
(フェーズ3)これらが更につながりあうエコシステム構築的な段階
である。
日本は産業革命ではフェーズ1には参加せず、フェーズ2、3で世界に打ち破ってきた。
今後、データとAIを使う産業化に関しては、データ×AI化(フェーズ1)、データ×AI化の二次的応用(フェーズ2)、インテリジェンスネット化(フェーズ3)、の3フェーズとなる。
今後はあらゆるものが賢くなっていく時代が来るはずで、全てのサービスがスマート化し、これらがつながり合っていくインテリジェンスネット化の時代が来る。フェーズ2、フェーズ3が勝負である。そこで大事なのは、夢を形にする力である。
よく「AI対人間」という話があるが、これから起きる本当の競争は、「『自分とその周りの経験だけから学び、AIやデータの力を使わない人』対『あらゆるデータからコンピューディングパワーを利用して、その力を活用する人』」の戦いである。仕事がなくなるのではなく、要る人と要らない人に分かれるのである。
この変化を受け、社会を生き抜くための基礎教養が変化している。現代のリベラルアーツは、母国語と世界語でモノを考えて伝える力、さらに問題解決能力の3つと考えることが出来るが、ここに、データリテラシー、すなわち、データやAIの力を解き放つ力が加わってくる。そのためには、データサイエンス力、データエンジニアリング力、ビジネス力といった3つのスキルセットが必要であり、これらが使え、具体的なドメイン知識を持つ境界・応用領域の人材をどれだけ生み出せるかが勝負である。これまでとは似て非なるデータ・プロフェッショナル人材が必要になる。
データやAIを使えば、情報の識別や予測・実行は自動化されるため、人間の仕事は、見る、決める、伝える、ということが中心になる。なお、このような革新期において変革を仕掛けるのは、10代後半から30代前半の若者によって行われてきたのであり、こうした人材をどれだけ生み出せるかが我々の未来に向けての勝負である。
そのために、大学の教育レベルで理文を問わず理数の素養、データリテラシーを持つ人間の育成、大学・大学院での専門家層の育成、国力を支えるリーダー層の育成といった3層の育成が必要である。加えて、ICTエンジニアやミドル・マネジメント層のスキル刷新のための再教育が必要である。しかし、現在の変化の時間軸では10年以内にゲームの流れが決してしまう可能性があるため、専門家層やリーダー層は海外から輸入するしか打ち手がない。今は世界の才能を取り込む千載一遇のチャンスでもある。
アメリカや中国がこの革新期における主導権を握るべく政府が大きく力を入れている中、このままでは米中と戦うのは非現実的となる。国力に見合った大型プロジェクトを複数掲げるべきである。リーダー層は大型プロジェクトの中で育つのは世界共通である。しかし、科学技術予算は米中が額で突出しているのに、日本は非常に少ない。
データやAIが世の中をこれだけ変えている中で、これらをメインで研究する日本の国の機関は3つぐらいしかない。しかしながら、運営交付金は減っており、研究に支障が生じている状況である。その影響は数字に出ており、各国の論文シェアを見ると、日本は元々2位だったのが5位に落ち、インパクトのある論文で見れば、6位まで落ちている。
日米の大学の資金力の差は大きい。日本の大学は国際競争力のない給与、スタッフ不足の環境にいる。教員の給与は半分以下、次世代を担うPhD学生もアメリカは実費ゼロだが、日本はおよそ年340万円かかる状態である。世界で才能を奪い合う状況において、ワールドクラスの人材を集めうるとは言えない状況である。
このギャップを解析すると、圧倒的に大きいのは投資・運用益で、次が国のR&D委託となっている。大学別運用基金をみると、アメリカの大学の数兆円に対し、東大は110億円、京大に至っては無い可能性すらある。一過性の予算ではなく、人材開発に向けた国家的な運用基金を作り上げなければ対抗するのは難しい。
トップ研究大学の強化費用の運用基金として10兆円程度準備し、運用プロを任命して7%程の運用益を出し、その利益の半分程を予算化していく。それにより、大学の人件費や施設、PhD学生の費用問題など、多くの点が改善できる。アメリカにある大学や研究機関に直接寄付する、勤務先が更にマッチアップすると税的に考慮される仕組みは日本も学ぶべきである。また、アメリカでは、連邦政府が大学や研究機関にかなりの研究開発を委託している。ここから新たな技術が開発され、スタートアップが数多く出て、ノーベル賞受賞者も輩出している。
これらの実現に向け、日本は国家全体のリソース配分を過去から未来へとかじを切るべきである。国全体を家族と捉え、あるべき姿を考えるタイミングである。我々が20年後、50年後、100年後にどういった未来を残したいか、という思いを持って行動していくことが大切である。