自然は偉大なチャーチスト

自然と人間が為す相場との関係を考察するブログです。

東欧のシリコンバレー・エストニア

 

“東欧のシリコンバレー”とよばれ、ブロックチェーン技術を活用して、ほぼ100%の電子政府を実現し、ユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上のベンチャー企業を次々と排出するエストニア

 

シンガポールイスラエル、中国の深センなど、世界ではシリコンバレーのモデルをにらみながら、独自に新しい企業や産業を生み出す仕組み作りに取り組んでいる。その中でも、バルト三国のひとつであるエストニアは、1991年に旧ソビエト連邦から独立した後にIT立国を掲げて電子政府を実現させた、「未来をダントツに先取りしている」国である。

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エストニアは、これまで資本主義先進国のアメリカが提示してきた社会とは異なる価値観を提示している。2018年に建国100周年を迎えたエストニアは、次の100年をどう考えているかという質問に対して、ケルスティ・カリユライド大統領は、次のように答えている。

 

「20世紀と比較しても、21世紀は大きく変わりました。100年前は馬車が当たり前のように使われ、それが時代遅れとなりました。デジタル化は、前述したように非常に急速な勢いで進展しています。そのため、100年後に何が起こるかは誰も予測できないと思います。ただその中でも、人権を守り、民主的な社会を発展させていくことが重要だと考えています。そのためにも、テクノロジーの変化に適応していかなければなりません」

 

こうしたエストニアが目指しているのは、ひと言でいえば、「ヒューマン・オートノミー(Human Autonomy)」という言葉で表現される、「人々が自由に生きられる社会」である。ここには、「人は好きな時に、好きな所で生活し、働き、学び、友に出会い、子を育て、人生を楽しむことができる」という意味が込められている。

 

エストニアのITの進歩は、①政府のデジタル化、②国民のデジタル化、③産業のデジタル化、④教育のデジタル化、など多岐にわたっており、とりわけ世界的にもユニークなのが、「e-Estonia(イーエストニア)」と呼ばれる電子政府の存在である。

 

エストニアでは、行政サービスの99%が年中無休で利用できる。そして、それを可能にしたのが、中央集権型の巨大なデータベースを持たない、「X-road(エックスロード)」という分散型データ管理システムによる、通信会社や金融機関などの民間企業のデータベースとの接続である。こうしたデータを保護するためには、セキュリティーブロックチェーン技術が活用されている。

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エストニア政府は、紙の書類を廃止し、電子署名を用いることで、大量の紙とサインによる決裁プロセスを省いた。2000年には閣議の電子化も行われ、分厚い紙の資料を用いて議事を進めることもなくなった。従って、エストニアでは、日本の財務省幹部が起こした公文書改ざん問題のようなことは起こり得ない。

 

エストニア電子政府の仕組みからは、「個人に関わるデータは個人がコントロールする」という「データの個人主権」の強い意志が見て取れる。エストニア政府元高官は、「日本は『マイナンバー』ではなく『ユアナンバー』ではないか」と指摘する。つまり、「政府が国民の情報をコントロールしたいがための制度であり、現状、国民にとって利便性のある制度になっていない。政府にとっての『マイナンバー』であり、国民にとっての『マイナンバー』になっていない」のではないかというのである。


電子政府化を実現したエストニアには、「デジタルノマド遊牧民)」や「グローバルフリーランサー」と呼ばれるハイレベルな人材が世界中から集まり、社会に大きな変化をもたらしつつある。エストニア政府は、2014年末から、「イーレジデンシー(e-Residency)」を開始した。これは、政府が外国人を「仮想住民」として認め、エストニアにいなくても仮想居住権を与える制度で、今、世界のトップ人材がイーレジデンシーを次々と取得しており、日本でもすでに2,000人近くがエストニアの仮想住民となっている。

 

来るべきデジタル社会においては、ビジネスに国境はない。国境という束縛から解き放ち、合法かつ透明性を持って、エストニア政府がグローバルに活躍する人材に自由を与える。それがイーレジデンシーなのである。

 

2019年には、「デジタルノマド・ビザ」というビザ(査証)も発行する予定である。これが実現すれば、エストニア内を最長365日間、EU内の26地域を最長90日間旅行できるようになる。エストニアを拠点に1年間、合法的に欧州で旅をしながら仕事ができるようになる。

 

また、エストニアでは、オンラインで法人が設立できる。エストニアEU加盟国であり、ここで法人を設立すれば、5億人の市場に参入でき、日本にいながらにしてグローバル企業を運営することができるのである。勿論、税率を下げて外資ペーパーカンパニーの設立を促す「租税回避地タックスヘイブン)」となることを目指しているわけではなく、エストニアがねらうのは 、ITを利用した産業の育成であり、国境を越えてグローバルに活躍する頭脳を集めることである。

 

2017年時点で、アメリカのフリーランサーは、労働力人口の36%に当たる5,730万人いるという調査がある。日本でも、副業・兼業を含む広義のフリーランサーは、労働力人口の17%に当たる1,119万人と推計されている。つまり狙うのは、日米だけで約6,850万人のフリーランサーがいるのである。

 

更に、170か国のフリーランサー21,000人に対して行った調査では、その分布は、ヨーロッパが35%、アジアが28%、ラテンアメリカが21%、アフリカが10%であり、北米はわずか4%に過ぎない。仮に北米で5,000万人のフリーランサーがいるとして、この比率から割り戻せば、世界には10億人規模のフリーランサーがいることになる。

 

エストニアのイーレジデンシーチームの推計では、2020年までに国境をまたいで活動するグローバルなフリーランサーは1億人規模に達するとされているが、これはあながち大袈裟な数字とは言えないのである。

 

今、世界中で移民問題が取りざたされているが、エストニアの国民の中にも、見知らぬ人々がやってくることへの不安を持っている人はいて、必ずしも移民が歓迎されているわけではない。これに対して、イーレジデンシーは実際にそこに住む必要のない制度であり、「グローバルを目指しながら、一方でローカルな心地よさを守るという、両方を達成するためのアイデア」ということができる。


エストニアは人口が約130万人と非常に少なく、

大統領も49歳と若い。先進技術を受け入れ、国の発展につなげる土壌がある。